研究領域の現状 143
計算分子科学研究部門
斉 藤 真 司(教授) (2005 年 10 月 1 日着任)
A -1).専門領域:理論化学
A -2).研究課題:
a). 励起状態反応ダイナミックスの理論研究
b).線形・非線形分光法による凝縮系ダイナミクスの理論研究 c). 過冷却液体のダイナミクスの理論研究
A -3).研究活動の概略と主な成果
a). 電子遷移にともなう励起状態におけるプロトン移動ダイナミックスの解析を行った。励起状態のポテンシャル面の精 度を維持し効率よく計算する方法論を 10- H y droxy benzo[ h] qui nol i ne に対して適用した。この系に関しては実験研究 も行われているが,これまで明らかにされていなかった電子励起後の色素分子の振動コヒーレンス,さらに色素分子 の振動から周囲の溶媒分子への緩和ダイナミックス等を明らかにした。
b).線形および非線形分光法による凝縮系のダイナミックス,とくに水の分子内および分子間ダイナミックスの解析を進 めている。とくに,分子間運動の揺らぎ(スペクトル拡散)の起源,エネルギー緩和ダイナミックスを明らかにした。 さらに,エネルギー緩和ダイナミックスに対する新しい解析手法を提案し,その手法による詳細な解析を行った。ま た,分子内振動・変角運動における揺らぎの影響の解析を行った。変角運動に関する二次元赤外分光法等の解析から, 変角運動における変調への伸縮振動の影響など新たな知見を明らかにした。変角運動については,実験的にも未知 の問題が多いが,今後の実験の展開に期待がもたれる。
c). 水は,他の液体には見られない多くの熱力学的異常性を示す。また,水の異常性は温度低下とともに増すことも知ら れている。このような熱力学的異常性の一つに,過冷却状態における,等積比熱には見られない等圧比熱の急激な 増加がある。この定圧比熱の特異的温度依存性の分子論的起源について,分子シミュレーションを用いて解析を進め, 熱力学的異常性の起源となるダイナミックスの時間・空間スケールを明らかにした。
B -1). 学術論文
T. YAGASAKI and S. SAITO, “Energy Relaxation of Intermolecular Motions in Supercooled Water and Ice: A Molecular
Dynamics Study,” J. Chem. Phys. 135, 244511 (9 pages) (2011).
J. LIU, W. H. MILLER, G. S. FANOURGAKIS, S. S. XANTHEAS, S. IMOTO and S. SAITO, “Insights in Quantum
Dynamical Effects in the Infrared Spectroscopy of Liquid Water from a Semiclassical Study with an Ab Initio-Based Flexible and Polarizable Force Field,” J. Chem. Phys. 135, 244503 (14 pages) (2011).
M. HIGASHI and S. SAITO, “Direct Simulation of Excited-State Intramolecular Proton Transfer and Vibrational Coherence
of 10-Hydroxybenzo[h]quinoline in Solution,” J. Phys. Chem. Lett. 2, 2366–2371 (2011).
S. YAMAGUCHI, K. TOMINAGA and S. SAITO, “Intermolecular Vibrational Mode of the Benzoic Acid Dimer in Solution Observed by Terahertz Time-Domain Spectroscopy,” Phys. Chem. Chem. Phys. 13, 14742–14749 (2011).
144 研究領域の現状
T. YAGASAKI and S. SAITO, “A Novel Method for Analyzing Energy Relaxation in Condensed Phases Using Nonequilibrium
Molecular Dynamics Simulations: Application to the Energy Relaxation of Intermolecular Motions in Liquid Water,” J. Chem. Phys. 134, 184503 (9 pages) (2011).
B -3). 総説,著書
大峯 巖,斉藤真司 ,.「水の揺らぎと反応」,.化学と工業 .64, 532–533 (2011).
大峯 巖,斉藤真司,松本正和 ,.「ミクロな水の性質:揺らぎ,相転移,反応」,.応用物理 .80, 0853–0861 (2011).
B -4). 招待講演
斉藤真司 ,.「水の多次元分光法の理論計算—揺らぎ,緩和,物性—」,.日本分光学会テラヘルツ分光部会 ,.パシフィコ横浜 ,. 横浜 ,.September.2011.
斉藤真司 ,.「凝縮系ダイナミックス— 超高速ダイナミックスから熱力学的性質の起源まで —」,. 分 子 研 研究会 ,. 岡崎 ,. November.2011.
B -6). 受賞,表彰
金 鋼 ,.日本物理学会若手奨励賞.(2010).
B -7). 学会および社会的活動 学協会役員等
理論化学討論会世話人会委員.(2002–2009). 日本化学会東海支部幹事.(2007–2008).
分子シミュレーション研究会幹事.(2007–2011). 分子科学会運営委員.(2008–2012).
B -8). 大学での講義,客員
総合研究大学院大学物理科学研究科 ,.「機能分子基礎理論」,.2011年 11月 13日–15日.
B -10).競争的資金
科研費挑戦的萌芽研究 ,.「生体分子の構造変化に伴う状態遷移ダイナミックスの解析手法の開発とその応用」,. 斉藤真司. (2011年度 ).
科研費基盤研究 ( B ) (2) ,.「線形・非線形分光シミュレーションによる緩和および反応ダイナミクスの解明」,. 斉藤真司. (2010 年度 –2012 年度 ).
科研費若手研究 (B),.「多時間相関関数を用いたガラス転移の不均一ダイナミクスの解析」,.金 鋼.(2009年度 –2010 年度 ). 科研費若手研究 (B),.「密度揺らぎの多体相関関数による過冷却液体ダイナミクスの解析」,.金 鋼.(2007年度 –2008年度 ). 科研費特定領域研究(計画研究)「空間・時間不均一ダイ,. ナミックス理論の構築」,.斉藤真司.(2006年度 –2009年度 ).
研究領域の現状 145 科研費基盤研究 ( B ) (2) ,.「化学反応および相転移ダイナミクスの多次元振動分光法による理論解析」,. 斉藤真司. (2004年度 – 2006年度 ).
科研費基盤研究 (C )(2),.「凝縮系の揺らぎおよび非線形分光に関する理論研究」,.斉藤真司.(2001年度 –2002 年度 ).
C ). 研究活動の課題と展望
励起状態反応ダイナミックスの理論研究に関しては,生体分子系における励起エネルギー移動の解明に向けて,電子状態 計算を行い,ポテンシャルエネルギー面,相互作用の解析を進める。線形・非線形分光法による凝縮系ダイナミックスの理 論研究に関しては,水の分子内・分子間ダイナミックスの解析を行い,水の中でどのようにエネルギー緩和ダイナミックスが 進んでいるかを明らかにする。また,過冷却液体の不均一ダイナミックス,とくに F ragile-Strong 遷移の起源,生体分子系に おける状態遷移ダイナミックスについて解析を進める。